パンケーキはブスの食べ物

あくまで可愛いのはパンケーキであってわたしではないのだ。

それは一人でも二人でも同じで、それぞれ違う面倒くささがあって、

彼氏と同棲するようになってから2ヶ月が経った。

1人の空間が持てるようにと2DKを選んだのに、結局エアコンの風が吹き抜ける寝室とリビングにずっと2人でいる。エアコンがなく壁とドアで隔たれた南向きの5畳半は、すっかり彼氏の物置部屋になった。

職場のキャリママに「2LDKとか3DK選んでも絶対1こ物置になる部屋できるよ」と言われていた。やはり先輩の言うことは正しいと早2ヶ月で実感する。

 

育ちも生まれも違う他人との暮らしはおもしろいこととおもしろくないことが毎日起こる。

エアコンのコードを解析してプログラムを組み、サーバーを通してiPhoneからエアコンのオンオフができるようになったり、外出から帰宅したらシンクがピッカピカになっていたり、ベランダのバジルがしおれていたり、祖母の葬儀のために2日間帰省しただけでシンクに放置された鍋や食器が積まれていたり、チョコミント氷が買い足されていたり、浴室から洗面台へ持ち出された洗顔フォームは定位置に戻されていない。

 

昨晩はとうとう衝突を起こした。理由なんて対したことはない。

夕飯を作るか作らないか。デリバリーはピザにするかガストにするか。メニューは限定にするか和風にするか。ハーブスパイスをかけるかかけないか。食べきれるか食べきれないか。

小さな歪と思い違いが重なって、とうとう向こうが不機嫌になった。

「食欲無いといいながらメニューを選んでおいて、人のお金で食べて、残すだなんて思いやりがないんじゃないのかなあ」と彼は静かに言った。

 

彼は正義だった。申し訳なかった、ワガママだった、ごめんね、と謝ったものの、PCの画面を見つめたまま「うん」と生返事が返ってくる。私は隣にいたくなくて、おもしろくなくて、逃げるように家を出た。

逃げるは恥だが役に立つ」という言葉もあったっけ。

午後9時をまわる頃、小雨が降り始める。近所の公園はどこも狭くて、明るくて、人通りの多い国道に面したものばかりだった。

 

一時間近くブランコをこいだ。

 

やっぱり一緒に住むのは時期尚早だったのではないか。1人の空間を設けたかったのに物置部屋にしたままだったのがいけなかったんじゃないか。これからも一緒に居る相手は私でいいのか。私が至らなかったばっかりに彼の機嫌を損ねてしまった。ベランダのバジルに水をあげつづけているのは私なのに。洗顔フォームを浴室に戻しているのは私なのに。トイレの電気がいつもつけっぱなしになっている。どうして。日常の中で小さく積みあがっていく雑な暮らしを、西野カナが歌うようなダーリンがいる日々を、愛しく思えないのは、私が未熟で甘えん坊だからなのだろうか。

 

ちょっと泣いて、謝る言葉を決めて、セブンに寄ってチョコミント氷とハーゲンダッツゴディバを買った。

 

帰宅すると、リビングでPCをいじっている。顔を見た瞬間に涙があふれてしまって、言葉をまとめたはずなのに嗚咽しか出てこず、まともに謝る事ができなかった。

結局チョコミント氷をはんぶんこして、泣きつかれて寝た。(彼は泣いていない)

 

結局、何も解決していない。ベランダのバジルは枯れて葉を落とし始めていた。トイレの電気も相変わらずつけっぱなし。

課題に対する改善案は無く、解決もせず、5畳半に詰め込まれた物は一向に片付く気配がない。お互いの愛情に甘ったれて、少し欠けた思いやりにふくれて、日々が過ぎる。

丁寧な暮らしと呼ぶには至らない点ばかりだが、今日も豆を挽き珈琲を淹れた。

 

「生きていくのって面倒くさいんです

 それは一人でも二人でも同じで、それぞれ別の面倒くささがあって、

 どっちにしても面倒くさいなら一緒にいるのも手じゃないでしょうか?」